(新しい)置き場

ごそごそしています

あのブロックをたどって見えたもの

<おしらせ>この記事は2018年5月の「警告の点、導きの線」のリライトです。自由ポータルZでいただいた講評を参考にし、写真やテキストの追加・修正を行いました。デジャヴュではないのでご安心ください。


あの黄色いブロック

街の景色にすっかり馴染んでいる黄色いブロック。このブロックについて、わたしはなにも知らなかったのだ。

f:id:miyanishinoaya:20200515221408j:plain

いや、「点字ブロック」という名称は知っていた。そして「目の不自由な人が、道を歩くときに使うもの」というのも知っていた。

でもさ、それがまさか2種類しかないだなんて、信じられます??


丸い「警告」、棒の「誘導」

わたしが外を歩くときは、「あ、信号」とか「おっ、階段」とか「はっ、改札」とか、声に出さなくても、目に入った時点で認識している。
だから、点字ブロックだってそうだと思ってた。「はい、ここ信号ですよ」、「この先階段ですよ」、「ここは改札の前ですよ」って、そこにあるものを表しているのだろうと。

でもさ、なんと。調べてみたら2種類しかないっていうんだよ、点字ブロックの種類。うっかり倒置法になっちゃうくらい、びっくりした。

f:id:miyanishinoaya:20200515180741j:plain

丸い突起…「警告ブロック」。注意すべき位置を示す
棒状の突起…「誘導ブロック」。進行方向を示す

警告か、誘導か。そのどちらかでしかないのだという。
えー?たった2種類…?
ごはんだったらオムライスとカツカレーしかない、ってこと?
お花だったらチューリップとひまわりしかない、ってこと?
湖だったら洞爺湖芦ノ湖しかない、ってこと?
お供だったら犬と猿しかいない、ってこと?

2種類しかないなんて。そんなことってあります?


街へ出よ、足元を見よう

f:id:miyanishinoaya:20200515180820j:plain

駅構内の床。
ふむ、ここは丸い突起のと、棒状の突起の、2種類だ。

f:id:miyanishinoaya:20200515182638j:plain

駅のホームドアの前。ドアの部分には丸い突起の「警告」、ドアとドアの間には棒状の突起の「誘導」。

f:id:miyanishinoaya:20200515174021j:plain

切符売り場へ「誘導」し、目の前に券売機があることを「警告」している。だけど「はいここは券売機の前ですよ」と具体的に言っている気配はない。

f:id:miyanishinoaya:20200509234851j:plain

階段、つまり段差の始まりと終わりを「警告」している。ここでも具体的に「階段!」と言っているわけではないようだ。

f:id:miyanishinoaya:20200509234920j:plain

曲がるところや、交差するところには、「警告」。

f:id:miyanishinoaya:20200509234947j:plain

横断歩道まで「誘導」して、道路に出るところで「警告」。
おお…たった2種類なのに、なにを言おうとしているのか読み取れるようになってきた。

f:id:miyanishinoaya:20200509235017j:plain

階段のふもと、エスカレーターの前、スロープや段差の前。すべて「警告」。
そうか…ホントに2種類しかなかったのか…疑ってすまなかったな…。
この世は「誘導」と「警告」で成り立っていた。


いや、もっとある…?

と思っていた矢先、新種発見。

f:id:miyanishinoaya:20200509235046j:plain

なんか細いの、ついてる。丸のブロックにそっと寄り添ってるけど、色もサイズも違って、あきらかに後付けだ。ついにキジの合流か。

f:id:miyanishinoaya:20200509235110j:plain

と思ったら、一体化してるのもある。最初からこうですけど?みたいに平然としてるけど、鬼ヶ島に向かう舟にウサギが乗り込んできたような違和感。え、お前いたっけ?ちがう話じゃない?仇のタヌキはここにはいないよ?
f:id:miyanishinoaya:20200509235133j:plain

他に、「警告」と「誘導」の中間みたいな楕円形のブロックもあった。設置場所から推測するに「誘導」みたいだけど、棒というより丸に近くないか?白杖とか足の裏の感覚で識別するの難しそうだな…。

f:id:miyanishinoaya:20200509235154j:plain

さらに微妙な長さの「誘導」もみつけた。ブロックの大きさだって、身を寄せ合って普通サイズに擬態してるけど、小さい。

なんだなんだ、2種類じゃなかったのか? 


ローカルルールから規格へ

ここで点字ブロックの歴史。

正式名称は「視覚障害者誘導用ブロック」。
1967年に岡山県内に設置されたのが最初。なんと日本が発祥。
1970年頃から全国に広まり、
2000年にブロックの突起、形状、寸法及び配列に関する統一した規格が示される。

なるほど、全国一斉に「せーの」で始めたわけじゃないから、いろんなところでいろんなブロックが自然発生して、規格が決まったあとでもそれらが残っている、ということなのか。バラバラだけど、それは全国各地試行錯誤(八文字熟語)の結果なのね。

こんな経緯で、いくつかの種類のブロックが混在する景色が誕生したというわけか。

多様化するブロック界

そして破損した古いブロックを現在の規格のもので修復したり、位置を変えたりした結果、我々にインスピレーションを与えてくれる模様となっている。

f:id:miyanishinoaya:20200509235228j:plain

やたら目を引く鮮やかな黄色。棒の形状も異なり、みにくいあひるの子のようだ。まわりのブロックからいじめられていないだろうか。きみこそがほんとうは白鳥なのに…!

f:id:miyanishinoaya:20200509235246j:plain

高校の新2年生を前に教壇に立つベテラン教師を思わせる配置。集中して授業を始めるまでにちょっと時間がかかるタイプのクラスだ。でも悪い子たちじゃない。ただ、若さが有り余っているだけなのだ。

f:id:miyanishinoaya:20200510141820j:plain

なぜまっすぐ一本で繋がなかったのか。途中で「警告」が入っているということは、ゆるやかな傾斜にでもなっていたのだろうか。地形の顕在化だ(なんて言ってみたけど、どこで撮ったか忘れてしまったのをごまかしているだけです。正直!)。

f:id:miyanishinoaya:20200510022721j:plain

黄色の濃淡もさまざまな上に、3パターンの棒ブロックが確認できる。点字ブロック界のダイバーシティがここに。

f:id:miyanishinoaya:20200510023504j:plain
f:id:miyanishinoaya:20200510023512j:plain
拡大。ね、違うでしょ。ちなみに右の手前も「誘導」です。

愛すべき、丁寧な仕事

職人さんの細やかな仕事が光るブロックたち。

f:id:miyanishinoaya:20200509235334j:plain

つなぎ目にもしっかり「誘導」を。棒の種類が違うけれど、この心遣いを誰が責められましょうか。

f:id:miyanishinoaya:20200510023922j:plain

エスカレーターの縁、細切り丸ブロックを添えて。シェフの気まぐれランチのようなそぶりだが容赦ない位置で丸の突起が切断されている。調和を乱さないための、きちっとした仕事ぶり。ミシュランの星に惑わされることなく誠実な商いを続けてほしい。

f:id:miyanishinoaya:20200510024123j:plain

鬼門除けを思わせる、溝の部分の切り落とし。念のため調べてみたが方角は南東だった。

f:id:miyanishinoaya:20200509235403j:plain

直角ではない曲がり角。周りの床も複雑に貼り合わされている、寄木細工のような見事な手仕事。点字ブロックとは、伝統工芸だったのだ。

ちなみに、ゆるやかな曲がりやスロープに「警告」を設置しすぎるのも、いちいち歩みを止めてしまうことになるのであんまり良くないみたい。なので、曲がる部分は、内角が135度以上であれば警告ブロックを設置しなくて良いのだそうだ。
これは135度なさそうだから、本当は警告ブロックを入れることが望ましいのだろうけど、この丁寧な仕事ぶりには敬意を表したい。愛らしい。


黄色以外もある

最近では周囲のテイストに合わせて、おしゃれにデザインされた点字ブロックもある。これはブロックというか、丸と棒がそのまま埋め込まれているタイプだ。f:id:miyanishinoaya:20200509235434j:plain

うっかり見逃してしまうくらい馴染んでるけど、これは「警告」だな。足裏を刺激して内臓の弱りを確認するやつではない。
f:id:miyanishinoaya:20200510024954j:plain

これも警告ブロック。ゴムっぽい色で隣にマットも敷かれてるけど、滑り止めではない。

このようなデザイン性重視の点字ブロックについて、色での識別を頼りにしている人たちからは不安の声が上がっているというのも聞いたことがある。最近では周囲の景観に馴染みやすく、なおかつ視認性に優れた点字ブロックも開発されているのだそうだ。


方向転換のその先に

おしゃれ警告とおしゃれ誘導。

f:id:miyanishinoaya:20200509235502j:plain

誘導された先に、左に曲がる「警告」を発見。どうしたどうした、急な方向転換。アイドルグループ脱退後のメンバーか。いったん留学しちゃう感じか(しかも筋肉留学)。

f:id:miyanishinoaya:20200510143641j:plain

その左の壁にあったのは、これ。

f:id:miyanishinoaya:20200509235543j:plain

「御用の方はインターフォンでご連絡ください 」。

なるほど、ここはゆるやかなスロープになっているからお手伝いが必要だったら呼んでね、のためのインターフォンか。
こんなの普段、気づかないよなぁ。実際、全然気づかずに日々行き来してたし私。
点字ブロックが「警告」してくれなければ、この先だってずっと見えなかっただろうな。 


いろんな仲間たち 

他にみつけた仲間。

f:id:miyanishinoaya:20200509235611j:plain

道路横断帯、通称エスコートゾーン。これは点字ブロックではないけれど、横断歩道内で進行方向を見失わないために役立っているのだそうだ。

それから先ほど登場したこちら、

f:id:miyanishinoaya:20200509235110j:plain

これは「ホーム縁端警告ブロック」。棒がホームの内側方向を示しているのだそうだ。ちゃんとしたブロックだったんだね、ウサギとか言ってごめんね。 


今まで景色に溶け込みすぎて、意識していなかった点字ブロック。今では私にもいろいろなことを警告し、誘導してくれる。
なんだか新しい言語を習得したみたいだ。 

f:id:miyanishinoaya:20200514143423j:plain

見どころ満載の写真でお別れです

 


 <参考資料>
「点字ブロック ―日本発 視覚障害者が世界を安全に歩くために―」
徳田克己・水野智美 著
2011年9月、福村出版株式会社 

 

日本産業規格 JIS T 9251:2014 「高齢者・障害者配慮設計指針ー視覚障害者誘導用ブロック等の突起の形状・寸法及びその配列」