サインポール再発見
ジョギング中の反省
ジョギングをしていたら素敵なサインポールを見つけたのだった。
はっとした。
そして「ああ私、『もう今さらサインポールを観察するなんて、ないよなぁ』と思っていたなぁ」と、反省した。
わたしなんにも見ていなかったんだな。
サインポール
突如登場した「サインポール」。なんのことかすぐ分かった人もいるかもしれませんが、私はこの呼び名がわからなくて検索しました。
あ、画面上だと「サインボール」って読めてしまうかもしれませんね。
野球選手にボールとサインペンを差し出して書いてもらうもの、が「サインボール」ですが(ごめんなさいね野球ファンになってからついつい野球っぽいことを挟みたくなっちゃってね…へへ)(野球の話はこれ以降まったく出てきませんのでご安心を)、
今回のテーマは「サインポール」です、さいんぽーる。
これです「サインポール」。
ああこれね、って、思っていただけたでしょうか。
ポールの右の「COFFEE」がかすんでしまうほどの、赤・白・青のくるくる。
これを見るだけで瞬時に「ここに髪を切ってもらえるお店があるな」とわかる、「サインポール」。
見慣れた赤・白・青の組み合わせ。
今さらじっくり見るものでもないよねぇ…って、思っていたのです私。
多様性の予感
いやいや、いわゆる「見慣れた」サインポールだって、よくみればひとつひとつ見どころ満載ですよ。
このたったふたつだけでもすでに、頭の形状もケースの質感も、色の巻きつきかたも違っていて、サインポール界の多様性を予言しているのだけれど、
冒頭に書いた、ジョギング中にみつけたのはこちら。
形状的には「ポール」ではないけれど、赤・白・青のくるくる。れっきとした「床屋さんのサイン」。
「床屋さんであることのサイン」、を「サインポール」と呼ぶならば、これは間違いなく「サインポール」。
こんなチャーミングなのあるんだ…!
ひかえめだけどしっかり存在をアピールしていて、優秀な新入社員みたい…!
わたしは目からウロコを落下させながら、ジョギングを続けた。
そしたら次にはこんなのが現れた。
壁
立体でもないし回ってもいないのだけど、わかる。ここが床屋さんだということが。
そうか、私が油断しているすきに「床屋さんのあれ」はこんなふうに進化していたのだな。
さんざん見尽くされてきたサインポール。
いまさら見るべきことなし・特筆事項なしって思ってた。
ごめんね、わかったつもりになってたよ。
反省の気持ちを込めて、今こそサインポールを巡ることにした。
一緒にどうですか、サインポール再発見の旅。
なお、撮影日は月曜日だったためサインポールは静止画のみでお送りします(床屋さんは月曜定休が多いのね)。あなたの想像力で回転させてください!!
思い出ストロー
まずご覧いただきたい逸品はこちら。
透明!
店名のフォント(ひさしの陰にあります)とは裏腹な、爽やかな高原の初夏の風を感じるスケルトンタイプ。
しかもよく見たらこれ、左右で若干ちがいますね。
一度でふたモデルと出会っていたとは。初めての豪華さに豪華だと気づかない危険性がありました。初めて乗った飛行機が政府専用機だったのと同じくらい危険でした。
このたたずまいに、私はハート型のストローを思い出した。
昭和のおわり頃に流行ったんじゃなかったかな、ふつうはまっすぐのストローがくにゃりとまがってハート型になっているあれ。友達の家で魅了された私は母にねだったのだけど「中が洗えないから汚くなってダメ」という、その時の私にはまったく理解しかねる理由で相手にしてもらえなかった。
今となっては至極まっとうな理由であったなぁと力強く、当時の母に同意できる。
洗い物、全然手伝わなくてごめんねお母さん。今ではちゃんとお弁当箱、自分で洗っているよ。
てくてく8キロ
ところで今回のサインポールの探し方は、スマホの地図で「理容院」と検索してピンが立った場所を目指しててくてく歩く、という素直な方法。
地図上にあるのに実際には無いお店も、地図上に無いのに実際には存在するお店もあった。
でも結局、目的地に接近したのち「床屋さんはどこかな…」と探すのは、サインポール。
『床屋さん店頭にあるであろうサインポールを探すための目印が、結局サインポールそのもの』っていうの、動物に化かされる系の、でもなんの教訓も示唆も含まれていない民話みたいだなと思った。
途中からそれが面白くなっちゃって、マスクの下でにやにや笑いながらうっかり8キロ歩いていた。 8キロってだいたい東京タワーから浅草の浅草寺までくらい。もはやはとバスだ。
そんな8キロをわたしのライフワークである「あの目」を見つけたりしながら、
まだ見ぬサインポールを求めて歩きます。
一筆書き
次にご覧いただきたいのはこちら。
向かって右の壁に取り付けてあるのはポール状だけど。
それより視線をちょっと左に、そしてちょっと上に!
ポールでないどころか、線だ。
でもしっかりと赤と青で塗り分けられていて、それが白い壁に映えている。
ポールという概念から解き放たれながらも、ポールの頭部のような突起の跡も見えるこれはもう、やはりサインポールだ。
ダイモラベルみたいな店名フォントと相まって、レトロ可愛い。
大きな紙をかぶせて、その上から鉛筆でシャーっとやって魚拓をとって部屋に飾ってうっとりしたい。
私はめろめろになってしまった。
ソーセージ鬼太郎
可愛いのもあれば、その逆もあった。
これを見つけたとき、最初は光の加減かと思った。
そのあと、もしかして私の目のせい?と思いあたった。もう大人の目(大人の目です)なのでそういうことがついにやってきたのかと。
でも違った。
本当に白黒だった。
子どものころは、家の近くの床屋さんで髪を切ってもらっていた。
待合席には少年漫画誌があった。順番を待つ間に手に取り、唯一知っているタイトルだったゲゲゲの鬼太郎を読んでみたのだけど、私の知っているアニメの鬼太郎と絵柄が違いすぎていて怖かった。さらにその中で鬼太郎がソーセージにされてしまっていた。
鬼太郎がソーセージに!!
ショックだった。そのショックがあの床屋さんに通うのをやめた理由じゃなかっただろうか。
その時感じた恐怖とショックが、この白黒サインポールになったということじゃ。どんどはれ。とっぴんぱらりのぷう。
ということではないですね。おしゃれ床屋さんだから、黒と白で押し切ってもよいのだ。
でもなんかきょろきょろしちゃった。ここ、ホントに床屋さん?て。
サインポールを探し求める気持ちが強すぎて幻影を見たのかと。
サインポール的なるものをサインポールとして思い込みたいだけなんじゃないかと。
本当はライブハウスかなんかなんじゃないかと。
思ったけど違った。ここは床屋さんだし、これはサインポールだった。
写真にも、店内にたくさん干されたタオルが写っているでしょ、間違いなく床屋さん。
でもさ、赤・白・青じゃないサインポールをわざわざ設置する必要、ある?
あ、赤・白・青じゃないからサインポールじゃないのかな、これ。
えっ、でもここは床屋さんだよね?てことはやっぱりこれはサインポールとして考えていいの?かな?
ん?だけど白と黒じゃ、床屋さんであることを示すサインではなくないか?
でも私、これをサインポールと認識したよね?てことはやっぱりこれはサインポール?
あれ、彼らアイデンティティだいじょうぶか、レゾンデートルで悩んでやしないか。心配だ。
次世代サインポール
白黒だなんて思い切ったことを…と唖然としていたら
最近のトレンドは白黒なのかしら。わたしの知らない間にサインポールが次世代に行ってしまっていたみたい。また、白黒を見つけた…
と思ったのだけど、よくよく見ると
白と黒と、オリーブグリーンだ。どうしたどうした、なぜその色を選択した。
いや、もともとは正統派の赤・白・青だったのに日焼けしちゃったのかも?それか今度こそ私の目のせいか…
と覚悟を決めたのだけれど、わかったよ。
黒とオリーブグリーンて、お店のマークの色と揃えてあるんだ!
はー、びっくりした。本当に、私の目が急に色を失ってしまったのかと思った。
エピローグ
身近すぎていまさらと見ずに過ごしてきてたサインポール。
しかし彼らなりに、進化し、多様化し、遊び心とともに街角に馴染んでいたのだとわかった。
大切なことは目には見えないんだよ、と星の王子さまのキツネが言っていたのはこのことだったのですね。
こうして私のサインポール再発見の旅は、いままでの思い込みをもみくちゃにされて幕を閉じたのでした。