春風に揺れるモビール
春ですね。
あたたかな太陽、きらめく日差し、ほころぶ花。
やわらかな風に吹かれ窓辺で揺れるのは
空間に動きと広がり、そして心にゆとりをもたらす
モビール。
これは悪夢ですか?
いいえ違います、それはモビールです。
黒い虫みたいなのが飛んでいますが
あなたの目の中にもいますよね。
そう、それです。
それを実体化したものがこちらです。
作り方をご紹介しながら、ここにいたる経緯をご説明しますので落ち着いてください。
飛びかう虫
春がきて少ししたある日。
私は職場で悟った。
仕事開始からしばらくすると、パソコンの前や手元の資料の上を、小さな黒い虫がヒュッヒュっと飛びかい始めた。
なんの虫だろう、まだ蚊の季節じゃないよな…
そこではっと思い当たったのだ。
これ、飛蚊症というやつだな。
飛蚊症(ひぶんしょう)とは
目の中に透明な微生物のようなものはずっと見えていた。
小学生のころ、クラスメイトとカーテンにくるまったり後ろの黒板に落書きしたりしながら、目のなかに透明なミジンコみたいなの見えるよね、とキャッキャしていた記憶がある。
しかし、私は子供の頃から眼科に通っていたので
待合室に貼られているポスターで「飛蚊症(ひぶんしょう)」と呼ばれる症状があるらしいことを知っていた。
『目の中に、黒い虫のようなものが飛びかって見える症状。年齢とともに気になる人が増える』というのが、当時の私がポスターから読みとった「飛蚊症」の症状。*1
これってわたしに見えているアレのことなのかな?
でもわたしの目のなかのは黒くはないし、蚊には見えないけど?
名付けのセンスなくない?と思っていた。
あれから幾星霜。
ついに透明ではない、ほんとうの蚊がやってきた。飛蚊症って名付けた人天才!
驚きと、和解
最初は驚きましたよ、そりゃあ。
いままでおとなしく、目のなかをふわふわ漂うだけだったあいつらが突然黒く色濃くなって私の視界を邪魔するようになったんだもの。
ルームシェア仲間が突然だまって全部屋の壁をぶちぬいてライブハウスにしちゃったみたいな驚き。
いままでそんなそぶり見せなかったじゃん…お互いに認め合いながらまあまあ快適に過ごしてたじゃん…。
だけどどこかで、でもあいつ元々そういうとこあったもんな、仕方ないか逆にあいつらしいっていうか…という納得のようなあきらめのような気持ちがわいたのも事実で。
いつかはこの時がくることを、どこかで知っていたんだ私。
そういう気持ちで、飛蚊症を受け入れた。
モビール、それはアーバンな暮らし
一方で、さいきん読んだ本に、モビールの揺れる部屋の描写があったのだ。
主人公の女性が住むのはニューヨークのスタジオ。ここでは「スタジオ」とは撮影用の場所ではなく、アパートの部屋のタイプを指すのだった。
ニューヨークの!
スタジオに!
揺れるモビール!
アーバンなくらし…!!
目の中に飛ぶ蚊たちの動きをみて、これはあれだな、モビール化するしかないなと思ったのはそのせいだ。
いまモビール化と入力しようとしたらモビール蚊と変換された。さすが私の愛機、わかっているな、私がなにをしようとしている蚊。
私の、加齢との向き合い方、見せてやるぜ!!
モビールの思い出
そういえば実家にもモビールがあった。
ぜんぜんアーバンではない、ニューヨークのスタジオとはかけ離れた、神奈川県の、山よりの家。
窓辺ではない場所の天井から、画びょうでぶらさがっていた。
窓辺ではないから風に吹かれてゆれることは全然なかったし、家族でごはんを食べている時なんかによく落ちた。モチーフが何だったのかも全然覚えていない。どこからやってきたのかもわからないし、どこにいったのかもわからない。まるでバイト先の先輩のようなモビールであった。
私の目のなかに飛ぶ蚊が三次元に生まれ落ちた瞬間だ。ようこそ世界へ。
メンバー紹介
これは実体化が難しいことはわかっていたけれど、私の目のなかでひときわ存在感があったので果敢に挑戦したもの。まあまあな再現率(自分のことを褒めて伸ばすタイプです)。
ざっくりと切れてしまった部分は接着剤でカバーします。ひと手間かけることで愛着がわきます。
これもなかなか難しそう、でもこの子がいれば表現に厚みが生まれるはず!と実体化。
どうでしょう、厚み。
出てますね、厚み。(褒めて伸ばすタイプです)
ばっさりと切れてしまった部分は接着剤でカバーします。ひと手間かけることでいっそう愛着がわきます。
これはシンプルな形状でありながら趣深い姿。
さっくりと切れてしまった部分は接着剤でカバーします(左もごまかしていますがさっくり切れています)。ひと手間かけることでますます愛着がわきまくっています。
こうしててまひまかけて、私にしか見えていないものたちに命を吹き込むのはとても満ち足りた時間でした。
正解はなく、ただ黙々と、目のなかに生きる彼らをかたちづくる。
これはもう愛そのものであった。
愛があふれすぎて、この子たちのことを「ぶんぶん」と呼ぶようになっていた。
黒いフェルトの身体を与えられたぶんぶん。かわいすぎて目のなかに入れても痛くなさそうだ。
そして完成へ
このぶんぶんたちにヒモをつけ、
棒に結んで組み合わせて、
なんだか魔除けみたいですね。もしくはその逆か。
参考資料のご紹介
ここまで読んで「自分も作りたい!」とたくさんの人が思ったことでしょう。だけど「飛蚊症モビールを作りたい!」と思ってなにも見ずに作れちゃうひとは、きっと天性のアーティストか飛蚊症モビールづくり検定2級の人だけですよね。
だからまず私は図書館で参考資料を探しました。
図書館の蔵書検索で「モビール」とキーワード検索してみつけた2冊。
『フェルトモビール&ガーランド』はいいとしてもなぜ『科学の実験』?
なんとモビールを作ることにより「つり合い」や「支点」について学ぼうということなんですって。モビールって科学なんですね。
これを参考に、なるほど大事なのは「支点」をみつけることで、棒の長さや左右のかざりのヒモの長さはテキトー自由でいいのね、と安堵しながら進めます。
だってあらかじめ何センチ何センチって、全部決めておくのって面倒くさいクリエイティブじゃないじゃないですかぁ。ね。
目玉焼きのモビールは実在するのか
よりみちをして、図書館検索あるあるのご紹介。
「モビール」で検索したらこんな本もヒット。
たまご料理の本?どうして検索でひっかかってきたんだろう、目玉焼きモチーフのモビールでも載ってるのかな?
とわりと本気で思ったけれど。
副題の『朝も昼も、夜も。』
あさもひるもよるも。
あさもひるもよるも
ここが「モビール」→「もひる」でひっかかってきたんだ。図書館の検索って長音・濁点無視が多いからこういうのときどきあるよね。あるある。
以上、図書館検索あるあるでした。
突然の別れ
思ったより強い風にもひるむことなく、堂々としたぶんぶんたち。
なんて春らしいのでしょうか。ね、うっとりするでしょ。
そして、このかわいいぶんぶんたちに
そとの世界を見せてあげたいと思ったのです。
そう思い立った私は、ぶんぶんをカーテンレールからはずし、ベランダに向かった。
強く、強く。
あー…
…からまり合い、永久に沈黙したぶんぶんたち。
実家にあったモビールも結局、こうして落ちてからまって、ほどけなくなってあきらめたんだった。
*1:小学生の私が読み取った情報なのでね。詳しくは各自チェッキング!