(新しい)置き場

ごそごそしています

建設現場しめ飾りコレクション2018-2019

―これは、しめ飾りへの想いをこじらせた女が一人、平成最後の年末年始、5日間に渡って建設現場のしめ飾りを巡った、壮絶な記録である―



時はさかのぼる

年明け早々、気になることがあった。
ここで言う年明け、とは、2018(平成30)年1月のことだ。
夜のジョギング中、マンション建設現場を通りがかった私。

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ん…?

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注連(しめ)飾り。「迎春」。

もちろん、しめ飾りは昔から知っている。実家の玄関にもあったし、車にもあった。幼い頃には兄と二人で自転車にも飾った。年末には雑貨屋さんや花屋さんで売られているのを見たし、今だって、たくさんの家やお店に飾られているのを目にしている。そういう時期だから。
しめ飾りは、お正月を迎えるために飾るもの。そういう認識。そうですね?

でも、ちょっと考えてほしい。
ここは建設現場だ。まだ人は住んでいないし、商いも行われていない。人の営みがないのに、しめ飾りがある。

なんで…?

その後、別の建設現場でみつけたこちらは

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家内安全。

いや、まあ「家」っちゃあ「家」、ですけど。
まだ完成してないでしょ、家。
っていうかひょっとして、工事の「安全」をこれで祈念してるってこと?
え、じゃあ何なら「交通安全」で代用しようとしてる現場もあるんじゃない?

よし、本格的に巡ってみよう!と決意したのだが、その夢は翌日には脆くも崩れ去る。
翌日は、平日。そう、年末年始の休みが終わり、工事の再開とともにしめ飾りは姿を消したのだった。
なんだよー、おもしろい調査になると思ったのに!



そして、2018年12月末。
年末年始の休工期がやってきた。
1年を経て満ち満ちたこのしめ飾り熱、いまこそ昇華させるのだ!!

ということでご覧ください、建設現場のしめ飾り2018-2019コレクションです!

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あっさりお披露目してしまったけれど、この19個を集めるのにはかなりの時間と労力を要したのだ。あ、うっかり労力とか言っちゃったけど、ホントはけっこう楽しかった。

それを今から語ります。あらかじめ言っておくと長いです、なので簡単に目次(ショートカット)を作ったのでご活用ください。でも本当は全部順番に読んでほしい…!

●活動初日、12月29日 動物の壁が出てくるよ!
●活動二日目、12月30日 愛車の紹介があるよ!
●活動三日目、12月31日〜活動最終日、1月3日 来シーズン役に立つライフハックがあるよ!

●飾られている場所別紹介 こんな場所に飾られているんだ!
●個体観察 きれいなしめ飾りがいっぱいだよ!
●しめ飾りは「あれ」なのか? ここが筆者のおすすめだよ!
●結果発表

 



  活動初日、12月29日

めぼしい建築現場はいくつかチェックしてある。
私はレンタル自転車にまたがり、年の瀬の山手通りとその周辺を疾走した。

しかし…

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ない。

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ないね…。

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ないな…。

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むしろまだお休みに入ってさえいないね…

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動物の生息する壁は見つけたんだけどなー。

うろうろすること2時間。建設現場を10箇所近く巡ったのだが、数個しか見つからない。
年末の土曜日だから工事ももうお休みに入っているだろう、と勝手に思い込んでいたけど、そういうわけじゃないんだな。
事前にこれチェックしておくんだった。休工日は明日からかー(現場によって異なります)

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わっしわっしとしめ飾りを採集できると思っていたのに。あせり始める私。これはもう、お正月休みどころじゃないぞ。このチャンスを逃すと次は2019年末までお預けとなってしまう。

しかし久しぶりすぎる自転車でお尻も痛いし、風に当たる手も冷たい。日も傾いてきたし、今日は一旦退散。昔自転車のハンドルに鍋つかみミトンみたいなのを装着してたマダムが居たが、あれが今欲しい。馬鹿にしててごめん。あれまだ存在しているのだろうか。

   活動二日目、12月30日

午後には帰省するため午前中から再びレンタル自転車にまたがる。
昨日返却した場所にそのまま居た自転車。もう愛車と呼んで良いだろう。
乗り始めてすぐお尻が痛くなった。そうだ、昨日痛かったこと忘れてた。完璧におんなじところが痛いな、同じ自転車だから当たり前か。

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2時間で500円ちょっと。いきなり年末に二日連続で借りられたきみも災難だったな。

愛車で山手通りとその周辺を今日も爆走。画面の左下から右上までが約4キロ。
これは29日の様子ですが、30日にも同じくらいの時間走っています。左下からスタートして右上に行って、うねうねしながら左下へ戻るという行程。10キロくらいですかねぇ。ルートを変えて大体同じ距離を二日間。あらまあ。

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一年が終わることに対して急に焦りだした計画性のない人みたいで恥ずかしい。

   活動三日目、12月31日

実家の最寄り駅付近をうろうろ。

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あー、南口のあのビルなくなったんだ…
ここ以外に新しい建物の建設現場が見つからなかった。たまたまなのかもしれないけど、地元の成長が止まったように感じて少し寂しかった。

   活動四日目、1月2日

帰京時には途中下車して開発の進む駅界隈を歩き回る。
この駅ではコインロッカーを見つけられず、実家から持たされた荷物を手に提げたまま1時間弱あちこち歩いた。
保冷バッグには干し柿、煮物の入ったタッパーウェア、冷凍の中華ちまき。母の愛がずしりと重い。

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そびえ立つ壁のような建設中マンション。期待できそう!(実際ここは規模的にもしめ飾り的にもケタはずれであった。詳細は後ほど)

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ここも大きいなぁ。続々と建設中。

建設現場を見つけるためのライフハック

ところでこの記事をここまで読んでいるということは来年、同じように建設現場のしめ飾りを巡ろうと心に決めているに違いないので、そんなあなたにとっておきの情報を教えちゃいます。

建設現場の探し方!

目印はこれです。建物と建物の間に時々現れる、仮囲い。

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しばらくは私、いちいち小道に入ってキョロキョロしていたのだけど、途中から、建設中ということはつまり、この仮囲い(と勝手に呼ぶことにした)を探せばいいんだと気付きました塗装工事という可能性もあるけど…ごにょごにょ)。
遠くからでも、建物と建物の隙間からでも、これが目に入ったらそこへ急行。実際にしめ飾りがあるかないかは現地で確かめないといけないけれど、途中からはこのメソッドのおかげで時間短縮ができました。

ちなみに疲れてきてからは心の中でアリエッティと呼んでいました。仮囲いの。

    活動最終日、1月3日

最後の採集として仕事の後、夜の虎ノ門を徘徊。

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車のライトで反射するゲート。
夜なので写真を撮るの難しかったけど、この日もなかなかの収穫があった。



こうして5日間採集したのだけど、本当のことを言うと、5日どころじゃ済まないのだった。
2018年の1月に建設現場のしめ飾りという存在に気付いてからというもの、年がら年中、建設現場という建設現場を意識するようになってしまったのだ。
特に2018年の秋以降はそれが顕著になった。
この現場は年内に完成するかな?年をまたぐかな?だとしたらしめ飾りが飾られるかな…
このビル取り壊すんだ!ということは次の建物の工事は年末には始まるかな…
あー、真新しいビルが完成している!ひと足早かったよ!
等々。
建設現場、そして建設現場のしめ飾りを、いつでも捜していた。どっかに君の姿を。向かいのホーム、路地裏の窓。
さらに夢にも見た。夢でも建設現場を探し、しめ飾りを探していた。何なんだこれは。恋か。恋だな。

このようにして集めた2018-2019コレクションを、まずは飾られている場所別にご紹介しよう。

<設置場所その1 ゲート中央>

多かったのは、フェンスやゲートの中央への設置。
広く大きなゲートをたった一人のオーラで支えている、まさしく「センター」といった佇まい。

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途中下車して見つけた大規模マンション建設地。さっき「ケタはずれ」と書いた、干し柿持っていった場所。
ここは今回巡ったなかでも一番の規模で、圧倒的だった。
広すぎて全てをまわることができなかったのだけど、私が訪れた4つのゲートにはすべて同じしめ飾りが飾られていたし、その上なんと

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両サイドに門松も従えていたのだった。ここはさらに通用口(写真左)にはまた別のしめ飾り&門松のセットつき。景気がよろしいのね…と素直に思った。

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これは山手通り爆走中に見つけたもの。

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しかし、ゲート中央のこの位置にあるのって…

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「あれ」みたいじゃないですか?ほら、あれ。(あとでね!)

<設置場所その2 扉>

続いて、事務所あるいは通用口への設置。

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家の玄関に飾るのと同じ気持ちだろうか。

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<設置場所その3 取り付けやすいところ>

そして、取り付けやすい場所への設置。うん、そういう理由は大事。

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ここは他にいくつもお花のプランターが飾られていて可愛らしい現場だった。個人のお宅だったので、工事を請け負う職人さんではなくて住人の方の飾りつけだと推測される。

ここまで見れば、もうみなさんも建設現場のしめ飾りに夢中ですよね。
きっと今すぐ建設現場に直行し、この飾りのかわいらしさを実際にその目で確かめたいとうずうずしているに違いない。
しかし残念ながら、この景色はもう次の年末年始まで見ることができないのです!
代わりに私がコレクションをご覧にいれましょう、だからもうちょっとつきあって〜

    鶴とか、水引とか、まつぼっくりとか

つぎは細部を見てみます。
元々、「建築現場のしめ飾りには何が書かれているのか?」が気になって始めたこの採集。
家庭用に売られている「家内安全」とか「交通安全」の、「安全」って部分を代用して使ってる現場が多いんじゃないかな〜って、仮説を立てていたのだけど。
さて実際はどうでしょう。

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ダイダイ、伊勢海老、金銀の水引となにやら賑やかな祝いの言葉の数々。ザ・定番といった様相。「お正月のしめ飾り」と聞いたらほとんどの人が思い浮かべるスタイルじゃないだろうか。いらすと屋にもありそう(と思って見てみたけど違った)。

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エビの下には「家内・交通安全」

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上にはまた「家内安全」と、「商売繁盛」「寿」「福」「壱億両XXXX(読めない)」、さらに当たり矢も二つ。めでたさ全部盛り。

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これは今のに似ているけど、ちょっとだけめでたさ減量。
上部「商売繁盛」と「壱億両XXXX」のひとつが削減され、紅白の紙垂(しで)も短く、金銀の水引の形が違う。

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「謹賀新年」
まつぼっくりが珍しい。クリスマスリース転用かな?とじっくり見たがそういうわけではなさそう。

シャッター音に驚いて出てきた猫。ごめんね

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こちらも「謹賀新年」
翼を広げる金色の鶴。二色使いの注連縄。紙垂も模様入りで寿ぎ度(ことほぎど)アップ。

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小ぶりな「迎春」。
注連縄をつかったものをしめ飾りと呼ぶならこれはしめ飾りではないけれど(水引が使われている)、この愛らしさに免じてしめ飾りとします。

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こちらも金の鶴。
紙垂(しで)部分がより複雑なモザイク状となっている。

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これも金の鶴だけど、飾り全体が金なので目立たない。
鶴の羽が水引ではないのは珍しい(他の鶴と見比べてみてね)。

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こちらの鶴は白。ちなみに工事としてはまだ家の基礎を作っている段階。オーナーはまだ立ち上がっていない状態であっても「家」と判断し、飾ったようだ。いくつか巡った中でもこのような初期状態で飾られていたのは稀。


    しめ飾りは「あれ」なのか?

ところで先ほど、「あれ」みたいじゃないですか?と申しましたが、その話をします。

こちらは昔ながらの注連縄タイプ。これはうまくカモフラージュされているのだけど、よく見ると

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チェーンロックが隠れている。

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チェーンロックカモフラージュはこちらも。

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そういえば去年見つけたのも

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鍵…ですね。

さて、ここで急に話をいちばん最初に戻すけれど、
なぜ建設現場にしめ飾りがあるのか?について。

そもそも、しめ飾りを飾ることには、どんな意味があるのか。
いくつかの本を調べた結果をざっくりまとめると、

注連縄は家の外と中を区別するもので、神聖な場所を俗界と分ける境界線の役割を果たす。それを縁起物(ダイダイとか伊勢海老とか)で装飾したものが注連飾りだという。しめ飾りをお正月に門や玄関や出入り口に飾ることで、家の中に不浄なものが入らないように境界線を張ったことになる


ということだそうだ。

なるほどね。お正月には年神様が来るから、その間、清潔を保つための飾り。ということを現在の人がどれだけ意識しているかはわからない。「お正月には飾るものだ(となんとなく思っている)から」と、意味や由来は考えずに飾っている人だって多いだろう。私だってそうだ。

建設現場の人たちも、「年神様を迎えるぞ!しめ飾りを飾るぞ!」と積極的に考えて飾っているかどうかはわからない。けれど、

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「不浄なものが入らないように」という呪(まじな)いと、「不審者が立ち入らないように」という施錠という、ふたつの意味が結果的に重複してこの姿として表れたというのが、私にはすごくすごく、おもしろく思えた。

この「呪い」の意味を背負っているからなのか、私はこの活動中、どのしめ飾りにも手を触れることが出来なかった。他人様のものだから当然かもしれないけど、それよりも、軽々しく触ってはいけないものだ、と感じていた。
いくら水引でかわいらしくアレンジされていても、やっぱりしめ飾りというものはまじないの道具なんだな。ごめんな、クリスマスリースの転用?とか疑っちゃって。

そういえばこの採集中、何度かこんなことがあった。

おっ、センターにしめ飾り発見!

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と思ったら鍵か〜

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こっちは赤く、より寿ぎ度(ことほぎど)が高い。が、鍵。
これら擬態鍵にはなんども心が折れそうになったけど、境界線なのかもと気付いたら腑に落ちた。心折れた甲斐があったってもんだ。



    結果発表

ここまで読んでくださったかた、ありがとう。
前書きからいきなりショートカットしてこられた方、ホントにショートカットしちゃったんですね…。あれは社交辞令と言ってだな、本当はしめ飾りを巡る紆余曲折、一大スペクタクルを堪能して欲しかったんだよ…!
言いすぎました、大丈夫です。時間は大事ですものね。

なお、カウントにあたっては写真で判読できるもののみとしました。ひとつの飾りに2つ同じ言葉がある場合はそれぞれカウント。単位は個、もといKotohogiとします。せっかくなので。
では発表します。


建設現場のしめ飾りに書かれていた言葉ランキング

3位…交通安全 4Kotohogi

2位…壱億両XXXX(読めない) 5Kotohogi

1位は…
なんと3つの言葉が8Kotohogiで並びました!その言葉とは

謹賀新年/家内安全/寿


という結果となりました!!!!

最後に大きな画像にして改めてご紹介です、盛大な拍手をお贈りください!!

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ここまで通読してくださった皆様はもうお気づきですね、
結局のところ、「どんな言葉が書かれているのか?」よりも「建設現場にあるしめ飾り」という存在そのものに夢中になってしまった筆者でありました。
そんな私の心を打った、ひとつのしめ飾りを、今シーズンのMVPとして称えたいと思います。

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紙垂(しで)にボールペンで「安全祈願」と手書き。ここまで真摯に、願いの込められたしめ飾りがかつてあっただろうか。豪華な水引や紙垂で飾られた数々のしめ飾りの中にあってもなお、私にはこれが一番印象強く残っている。

以上、2018-2019建設現場のしめ飾りコレクションでした。また次のシーズンでお会いいたしましょう!皆さまよいお年を!!(2019-2020シーズンに向けて建設現場をチェックしながら今年をより良く過ごしましょう、の意味です)



おまけ

私のiPhoneが勝手に分類しました

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<参考資料>
日本民具辞典』日本民具学会/編,ぎょうせい,1997
和ごよみと四季の暮らし』新谷直紀/監修,日本文芸社,2006
図解版 常識として知っておきたい日本のしきたり武光誠/監修,2007