文字が好きなみなさん、こんにちは。
YouTubeでもなくTikTokでもなくこのブログを訪れてくださっているということはもう全員、文字が好きだと確定していますので、話を進めます。
活字に囲まれて2時間うっとりしてきた話をします。
市谷の杜 本と活字館
新宿区市ヶ谷にある「市谷の杜 本と活字館」は、活版印刷の技術とその魅力を伝える文化施設。
2021年2月というなかなかお出かけが難しい時期に(私の)知らない間にオープンしていて、今でも見学は完全予約制。
JR市ヶ谷駅から思ったより歩いた(15分)けれど、この建物の佇まいを見たら時間なんて吹っ飛んでしまった。明らかに現代の建築デザインではないな。ここだけ時間、止まってた?
絶妙にレトロな雰囲気を残すこの建物は、実際に使われていた旧営業所塔の建物を修復・復元したものだそうだ。
さっそく入館してみましょう
1階は、「印刷所」と「喫茶」。
「印刷所」エリアには、むかし活字を作るのに使われていた機械などが置かれ、活版印刷で本をつくる流れが「作字」「鋳造」「文選」「植字」「印刷」「製本」の6つの工程で紹介されている。
2階は「展示室」と「制作室」と「購買」。
展示室エリアでは、その日は「100年くらい前の本づくり」という展示が行われていた。
「制作室」には、1階とはうって変わって現代のいろんな印刷機器が置かれていて、
テキンという活版印刷機でしおりづくりの体験もできる。
いかがでしたか?気になったみなさんはぜひ行ってみてくださいね!
…って終わらせるくらいならこれ書いてないから!!!
ということで入口に戻りますので全員ついてきてください!(全員です!!)
(改めて)さっそく入館してみましょう
入口すぐには館内マップ。
…おや?
ひっそりと活字印刷所のアピール。さっそく笑顔になってしまった。隠れミッキーより私は嬉しい。
秀英体と印刷と製本の歴史
ここ「市谷の杜 本と活字館」は、大日本印刷という会社の施設なのだけど、この会社が誇る歴史ある「秀英体(しゅうえいたい)」という文字のかたちが、展示の中心となっている。
詳しくは公式サイトやこの本がすごく良いのでこの記事では深くは触れないけど、有名なところでは『広辞苑』の文字が秀英体です。
つまり、秀英体とともに歩んだ印刷と製本の歴史を知ることができる場所というわけ。
はい!そこの〇〇(←ここには「文字」「印刷」「製本」の任意の文字をいれてください)好きの方!!行くしかないですよね!!
え、文字のかたちに違いがあるなんて知らなかった?でも今知りましたよね!!
つまりこれを読んでいる人なら全員楽しめます!(全員です!!)
素敵ポイント1:あふれんばかりの秀英体
こんな感じよ、文字好き垂涎の、秀英体にまつわる数々の展示品!
当時の収納の状態が再現されていたり、
私、もう早いうちに許容量を超えました。
ねえ、なんなのここ!!!
何時間でも居られる!!!
住める!!!
呼吸は浅く心拍数は上がりまばたきを忘れ、ひとり静かに興奮していました。
だって、完全予約制で館内に人はまばらで、いくらでも展示物の前に居られてじっくり説明を読んだり活字のひとつひとつをじっくり眺めたりができてしまうんだもの。これで興奮しないなんておかしいでしょう?!なんて罪な施設なのかしら!!(責任転嫁)
しかも展示物のほとんどは実際に長い歴史を経て使われてきたもの。醸す空気が濃いのよ…待って…ここの塵になってずっとたゆたっていたい…
…はっ。
危うく塵になるところでしたが、私はこれを読むあなたにもっと伝えたいことがある。伝えなければいけない素敵ポイントがまだある!!!
ので続けます。
素敵ポイント2:活字の壁
活字と言ったらこれですね。
活字が収納されている棚。「ウマ」というのだそうです。
拾われるのを待っている、たくさんの活字。ぜんぶ活字。こんなに整然と活字が並んでいるなんて、それだけでもう胸がいっぱいになってしまう。
ちなみにこれ、完全な展示物かと思っていたのだけど
奥から作業服を着たおにいさんがすたすたとやってきて、棚からいくつかの活字をひょいひょいと選んでまた奥へと消えていった。え…これ現役なの?!ますますアツい!!
ああもう愛おしい。食べたい。
これはルビ用の活字。私の人差し指の大きさと比べてほしい。なんだこの…ちいさくてかわいいものは…わたし溶けそう。熱気で湯気出てたかも。ここで興奮で倒れても本望よ。宮西野あや、活字とともに眠る。
そしてね、見てうっとりするだけじゃないの。なんと(疑似)体験できるんですよ!!!
素敵ポイント3:文選対決
展示の一角。
このたくさんの活字の中から、文章を印刷するのに必要な活字をひとつひとつ拾う作業…そう、ジョバンニがやっていたあれですよ!あれ(用語的には「文選」ぶんせん、というのですって)を、なんと疑似体験できる!!
しかも、熟練の職人と、自分のタイムを競うの。
テキストは夏目漱石の「坊ちゃん」冒頭。その活字のある部分の画面をタッチすることで活字を「拾う」。
(わたしくらいの大人の目になると、ちっさい文字はちょっと、なかなか手ごわいのよね…うふふ。)
職人、早い…!!
正直に白状します。
活字が探せなくて手間取っていると親切に「このあたりにあるよ…」と画面上のだいたいの場所をサジェストしてくれて、さらに時間がかかると「このへんだよ…」と範囲を少しずつ狭めて教えてくれるの。
それでやっと該当の活字を見つけることができるのだけど、わたしそれでもみつけられなくて「こうなったら…みつけたフリをしてやるぜ!」ってサジェストされた枠内のテキトーな部分をタッチしてみたのだけど、ダメでした。当たり判定わりと厳しめ。ズルしようとしたのが職人にバレたみたいで恥ずかしい。ごめんなさい、少しでも早くお母さんにパンと角砂糖を買って帰りたかったんです。
そうか、ジョバンニはこれをやっていたのだな。わたし銀河鉄道の夜は人生のマイベスト書物なのだけど、より一層ジョバンニが身体に馴染んだように感じた。
こうして文字を拾い、並べ、印刷し、本が作られていたのか…!と思うと、ぞくぞくする。先人たちよ、ありがとう。
素敵ポイント4:マジなところ
もうひとつ、ゲーム的に体験できるのが「製本」エリアでのこちら。
「製本を学ぼう!」とフレンドリーに呼びかけられて、どれどれ…と「目指せ!本づくりプランナー」を選択。
本づくりプランナーの見習い、という立場になってあれこれ考えていくゲームなのだけど
ふさわしくない仕様を選ぶと「週刊誌に合った仕様を考えてよ」としっかり怒られる。施設見学の客相手だからと言って容赦しない。上司の表情もマジのやつだ。
そう、この施設は全体的にマジなのだ。
迎えてくれたスタッフさんは誰も穏やかで親切で優しく、丁寧に展示の説明をしてくれる。そんな中で「本がお好きなんですか…?」とか「印刷にご興味が…?」と聞かれることが数回あり、それは雑談を振る気軽なやつではなく”マジ”のトーンで、「あ、これは同好の士かどうか見極めてるやつだ」とはっと緊張が走る。
もちろんそれは見学者を見極めるとか見定めるとかの意味ではなく、単純に文字や印刷に対する興味を素直に質問しただけなのだけど、見学が進むにつれてこちらも文字好きの体温が上がってしまっているところなので、良いバチバチでの一触即発みたいな場面だ。そして「うふふー」と双方表情を崩す、文字が好きなもの同士の、ひそやかな交歓。それも含めて、心地いい。
素敵ポイント5:遊びごころ
これも見てほしい。館内にあるサイン。
活字みたいなエレベーター!
活字みたいなトイレマーク!
ねぇ、もう至福でしょ。うっとりする。血圧上がっちゃう。持ち帰りたい。本当はべたべた触りたかった(届きません)。私マスクの下でずっと口開いてた。
さらに二階には
抱きしめたい!!!!
こんなふうにそこかしこに、歴史ある活字の始祖としてのプライドと遊び心がちりばめられている。会社の宝である秀と英を転がしちゃっていいのかしら。いいのよねきっと、愛があるから。
素敵ポイント6:隙のなさ
興奮でくわんくわんになった頭と身体を鎮めようと、一階に戻りカフェで注文。
期間限定ドリンクのひとつ「折丁」(おりちょう。製本用語)。
もちろんこれも秀英体ですって。
隙がない。これでもかと秀英体でたたみかけてくる。ありがとう文字、ありがとう活字…。
このように活字が満ち満ちた2時間だった。活字の活ってそういえばサンズイだわ、どおりでわたし溺れそうになったわけだ。
たぷたぷになった私。恍惚としながら建物を後にしようとするけど…待って、あの植栽の表示は…
ここにも秀英体だ!!!(卒倒)
胸がいっぱいで帰り道はゆっくり歩いてしまった。
さあ、これを読み終わったらあとはもう今すぐ予約をして市ヶ谷へ駆けつけるのみ。ともに活字の海の藻屑となろうじゃないか、同士よ!!