(新しい)置き場

ごそごそしています

<日記>ヨシタケシンスケ展かもしれない に行ってきた

ヨシタケシンスケさんが好きで、展覧会には行こうと思っていた。
7月頭までだったはず、いつ行こうかなと6月中旬に検索したら、すでに前売り券は完売していた。
しかしどうやら当日券が若干出たり、出なかったりしているらしい。

よし、当日券に並んでみよう。

 

知らない地域の初めてのバス

8時半の電車に乗る。普段の仕事と同じくらいの時間に、逆方向の電車に乗るのは新鮮だ。

荻窪駅で降りてバス停へ向かう。バス停の位置と時間はあらかじめ確認してきた。予定通りのバスに乗る。

実家に住んでいた頃はずっとバス生活だった。寝坊して乗れなかったり、いくら待っても来なかったりもした。当時はバスの時刻表に合わせる生活が当たり前だったので不便とも思わなかったけれど、いま時々実家に帰るときなど、1時間に2本しかない時刻表を見てよくこれで生活していたなとしみじみ思う。終バスだって早い、今なら仕事中の場合だってある時間だ。

しかし最近は電車移動がほとんどなので、時々バスに乗ることがあると楽しい。
いちばん後ろの窓側に座る。本当はいちばん前の席も好きなのだけど、コロナ対策とのことで座れないようになっていた。

8時50分。バスが動き出す。終点まで25分ほど乗る予定だ。

初めてのバスは乗客層も車内放送も目新しい。
お揃いのジャージを着た学生がいるので途中に学校があるのだろう。
「乗車券は色付きのパスケースに入れたままのご利用はご遠慮ください」、私の実家のほうのバスでは聞いたことがない車内放送だ。

駅前から狭い道を行く。窓の外すぐのところにお店や、電柱や、ゴミ集積所が見える。
プラごみとカン・ビンのようだ。うちのあたりとは曜日が違う。

腕がずっと熱い。日差しのあたる側に座ってしまった。

途中の停留所でお揃いのジャージを着た学生たちが全員降りた。

しばらくすると朝の渋滞につかまったようで、バスの動きはゆっくりになる。バスは電車と違って渋滞につかまるのだということを思い出す。
時間を確認しようとスマホをひらくと「あっちゃん」という名のWi-Fiを拾う。車内にあっちゃんがいるのだな。

斜め前の席で母親に抱えられていた小さな男の子が「いやーだ…」とつぶやき出す。どうした少年、と見ていると次の停留所で抱えられたまま降りてそのまままっすぐ小児科のビルに吸い込まれていった。母親の機敏さよ。

終点が近づく。停留所で立っている女性は私の乗っているバスから目をそらし、別のバスが来るのを待つように後続のほうをじっと見ている。そうそう、「乗りませんよしぐさ」だ。「私はこのバスには乗りません、なぜなら別の系統のバスを待っているので」を立ち方や目線であらわす、それが「乗りませんよしぐさ」。私もよくやっていたな。運転手さんは扉を閉め、終点へと向かう。

 

バスを降りて歩く

終点で降りる。ここから目的地である世田谷文学館までは徒歩5分。バスで冷えた身体が暑さを感じる前にたどり着くとよいのだが。

 

歩く。
暑い。
そうだと思い途中で郵便局に入り、お金をおろす。
郵便局の冷え方はどこも同じな気がする。バスに乗ったせいもあってか、実家近くの郵便局の冷水器から飲む水の美味しさを思い出した。

 

歩く。
暑い。もうそろそろ着きたい。

こんなところにホテルかな

なんだか和風なホテルがあるなと思ったらベネッセの有料老人ホームだった。

森だ

突如森に入った。文学館の気配がする。

着いた

開館時間まで並ぶ

進むと、果してそこにはすでに10人ほどの列が出来ていた。
最後尾の女性に「すいません、これは当日券の列ですか?」と尋ねると「はい、そうです」とのこたえ。間違いないので並ぼう。到着時刻9時25分。

数分後、私の後ろに並んだ女性から「すいません、これは当日券の列ですか?」と全く同じように尋ねられる。私も「はい、そうです」と全く同じようにこたえる。

目の前は蔵。そして水路。鯉もいるようだ。

蔵ではない(扉です)

あとはひたすら待つのみ。

絵本作家の個展ではあるが、並んでいるのはほぼ全員大人だ。

土日は完売

列はますます延びている。「これ当日券の列かな?」「わかんないけど並んじゃお!」「数枚だって。買えるといいね」など、それぞれが話す声が聞こえる。

前の女性に連れの男性が合流する。むむむと思うが、さっき親切にこたえてくれたし、まあいいかと思う。

大人は2列になるのが苦手

9時35分。係の人が10時開館だと言って歩く。当日券の有無については何も言ってくれない。並んでいる側も誰も尋ねない。

そのあと同じ係の人に、列が延びてきたので2列になってくれと呼びかけられ、もぞもぞと2列になろうとするがうまくいかない。大人は見知らぬ人同士で2列になるのに慣れていない。1列だったり2列だったりの不格好な列が出来た。

世田谷の鯉

じゃばじゃばと鯉が騒ぎ始めた。日傘の陰から覗くと、ごはんがかりさんが餌を撒いていた。
後ろのカップルは友人たちのインスタについて話している。匂わせだ、どうやら付き合い始めたらしいぞという。

並んでいる間読もうと本を持ってきていたが、左手は日傘、右手は扇子で手が足りない。

再び係の人が現れ、チケット事前購入済のひとと予約済のひとに向けた案内をして歩く。当日券についてはなにもコメントがない。
後ろのカップルもひそひそ「当日券あるかな?」「なきゃさすがに言ってくれるんじゃない?」などと話している。するとさらにその後ろの女性が「当日券どうなんですかね?あっ戻ってきたから聞いてみましょう!」と係の人に声をかけてくれた。
当日券の人もこの列で問題ないそうだ。入館後に分かれるらしい。
後ろのカップルは女性にお礼を言う。ありがとう、私も日傘の陰で頭を下げた。

 

開館したが

10時。いよいよ入館。私の前に並んでいる人たちは全員、当日券カウンターの列に向かう。私も手の消毒後、その列に続こうとするが係の女性に声を掛けられる。

「申し訳ありません、日傘は傘立てにお願いします」

えっ、このタイミングで?列はどんどん進んでいる。長い日傘は傘立てに預けるよう、確かに開館前の係の男性も言っていた。でも、今??声を掛けられている間、私の後ろのひとが追い越していく。せっかく早い時間から並んでいたのに!私は焦って「すいません、チケット買った後でいいですか?」と尋ねる。はいと言われたのでその時点での列に戻る。

ああ、私の後ろにいたカップルは私の前に進み、さらに私との間に3人も入ってしまった。5番も順位が落ちてしまった。せっかく早起きしてきたのに。これで目の前で売り切れたりなんかしたら、文句を言ってしまいそう。いや、事前に日傘を預ければよかったのだけど、直前まで日差しのあたる場所に並んでいたのだもの、そんなことまで頭が回らなかったよ。ねぇ、正解はどうなの?私が悪いの?もわもわとした気持ちで引き続き並んでいると、目の前でカウンターの「若干当日券あります」の表示が「10時入場」から「11時入場」に変わった。ほらぁ…さっきの順番どおりで並んでいれば、10時の回で入れたのに!私は落胆したし、怒っていた。でも完売じゃないし、こんなことで怒るのはやめよう、でもなんだか腑に落ちない。
だけどはっとした。私の前にいる女性、この人、さっき外で係の人に当日券の有無を聞いてくれた人だ。私も含め誰一人聞こうとしなかったことを、聞いてくれた人だよ。それなら感謝しなくちゃ。見知らぬ人たちのなかで(図らずも)代表して質問をするのはちょっとした労力だ。それならさっきのお礼として、順位くらい譲ったっていいじゃないか。さらに、私と微妙な2列になっていた女性が受付カウンターの先に空きそうなほうをジェスチャーで「どうぞ」と譲ってくれた。この人はもしかしたら、私が日傘のやりとりで順番が下がったのを見ていたのかもしれない。私は恥ずかしいのだけれど、やっぱり順位が下がったのを気にしていて、素直に「どうぞ」を受けることにした。ああ、私が逆の立場だったらこんなふうに譲ることが出来るだろうか。「ありがとうございます」と一歩前に出て、窓口に進むときにも会釈して行かせてもらった。たいして順位が落ちたわけでもなく、自分の不手際が原因でもあるのにイライラした私。正直、この時点でもまだ日傘のやりとりの件には納得がいっていなかったけど、それとは別にひとの親切に雷に打たれたようになった。

 

やったー

待ち時間

無事に11時入場の当日券を購入。

まだ時間があるのでいったん外に出て、飲み物を買いに行くことにする。
遠くまで行ける暑さではなかったので、目についた成城石井に入る。見慣れないドリンクばかりのなか、レモネードを買って文学館に戻り、木の陰で飲む。

成城石井ブランド

再度入館し、ミュージアムショップを見る。ヨシタケさんのグッズがたくさんだ。空いているうちに買ったほうがいい、とSNSで聞いていたが、やはり展示を見てからのほうが思い入れも変わるだろうと買わずに一回りして離脱。

つまんないかおでしゃしんをとろう!


入場時間までロビーにある顔ハメの裏のベンチで待つ。
穴から見えた外の緑がまぶしい。


入場~退場

11時、会場へ。
(展示の良さは説明できるものではないので説明しません)

B6サイズのスケッチ2,000枚の壁

元々立体造形の方だとは知らなかった(どれもすてき)

原画がジップロックに入って飾られているのもチャーミング

あちこちにある付箋が良いアクセント

1時間ほどして退場。
どれも素敵で、満たされて幸福だった。

 

コレクション展と、からくり人形

あらためてミュージアムショップに立ち寄り、クリアファイルを購入。レジに並びながら当日券カウンターを見ると当日券は「16時入場」になっていた。しばらくするとそれも完売表示に変わった。

さて帰るか、いやそういえば別の展示も同じチケットで見られると言っていたなと思い出し、1階奥のコレクション展へ。世田谷ゆかりの文学者たちにまつわる展示をしているという。世田谷にも文学史にも詳しくないので楽しめる自信はなかったが、せっかく来たので入ることにする。

受付の女性が「自動からくり人形、上演中です」と言う。別に興味ないな、と思ったが「村上春樹さんの『眠り』です」と続いたので足早に展示室奥へ向かう(私は村上春樹が好きです)。上演は終盤で、私が到着してすぐに終わってしまった。しかしその短い間にすっかり虜になってしまったので、続く2つの作品も続けて見た。

 

ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

中原中也のこの作品を私は読んだのだろうか。記憶がないが、

ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

この言葉の響きは確かに知っている。

 

終わってから展示を見て歩く。
所々に知っている作家の名前や作品名があったが、8割は知らない人や知らない作品、知らない歴史だった。本当に私は知らないことが多いのだなと唖然とする。

再びからくり人形の上演時間になったので『眠り』を最初から見る。

終わってからまた展示を最後まで見ると、身体はすっかり冷え切ってしまっていた。
14時30分退館。

 

帰り道

来た道を戻ろうとするが、この道で合ってたかなと不安になる。日差しが午後の濃度になったので印象が異なっていただけで道は正しかった。
身体はキンキンに冷えているので汗をかく前にバス停に着く。

バスが来るが、乗りたいバスではない。「乗りませんよしぐさ」をしてやり過ごす。その後に来たのは乗りたいバスだったので、「乗りますしぐさ」(日傘をたたんだり、パスケースを取り出したりする)をして乗る。

また日差しの当たる側に座ってしまった。

停留所で降りる人がいると、降りやすいように降車口側にバスが傾くのだった。そして扉が閉まるのと同時に傾きは元に戻り、バスは発車する。そうだった思い出した。

朝にはなかった「光化学スモッグ注意報発令中」の札がお店や交番やなんかに出されていた。ゴミは回収されていた。

途中で日差しの当たらない側の席に移動する。バスの揺れが心地よくてうとうとし始めたところで終点の荻窪駅に着く。

駅のホームでヤクルト1000を買って帰る。